ライブドア上場廃止からLINE上場まで。元ライブドア社員は何を見て何を感じたか【書評】

ライブドア上場廃止からLINE上場まで。元ライブドア社員は何を見て何を感じたか【書評】

「LINEする」と動詞になるほど、われわれの生活に浸透したメッセージアプリLINE。その開発元の株式会社LINEは今年秋に1兆円規模とも言われる大型上場を予定するなど、その成功が世間の注目を集めている。

▶ホリエモンの悪口でなくても出版できる時代に


「LINEする」と動詞になるほど、われわれの生活に浸透したメッセージアプリLINE。その開発元の株式会社LINEは今年秋に1兆円規模とも言われる大型上場を予定するなど、その成功が世間の注目を集めている。ところが、LINE株式会社がライブドアの遺伝子を受け継いでいることは、業界関係者ならいざしらず、世間一般的には意外と知られていない。

ホリエモンこと堀江貴文氏が逮捕され上場廃止になったライブドアはその後、韓国系のIT企業NHNに買収、統合され、そこで開発されて成功したのがアプリLINEだった。そしてアプリ事業を中心にNHNから独立したのがLINE株式会社である。なのでLINE株式会社には出澤剛代表取締役を始め、ライブドアの元社員たちが多数在籍し、活躍している。LINE株式会社の中にはライブドアのDNAが色濃く残っているわけだ。

僕自身も、ライブドア時代からの友人がたくさんLINE株式会社で働いているので、ライブドア事件のことやLINE成功の裏話など、折にふれて聞く機会がある。ただ彼らは苦労話を冗談交じりにさらっと語るだけ。LINEの成功に関してもみな非常に謙虚で、ただ淡々と目の前の仕事に取り組んでいるだけのように見える。

事件後は、悪の権化のように世間から扱われたライブドアである。相当の苦労があったはずだ。その辺りをじっくり聞かせてもらいたいと思っていたら、友人の小林佳徳氏が「社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず、意志は継続するという話 」という長いタイトルの本を書いて、献本してくれた。まさに僕が聞きたかった「中の人」の本音が綴られた本になっている。

小林氏は2003年5月から2006年3月までと、2006年7月から2008年12月まで、ライブドアに2度在籍している。8年前のライブドアショック直後にもこのような本を書こうとしたのだが、「ライブドアに裏切られた」「堀江社長はひどかった」というスキャンダラスな暴露本的な内容を出版社から要求されたので、そのときは出版を断念したのだという。

やはりこの本は、今だから出版できる本だと思う。

▶マスコミとは異なるホリエモンのイメージ


当時は、急速に力を持ち始めたインターネット産業に対する警戒感や恐れが、社会に蔓延していたのだと思う。当時新聞記者であった僕も、ネットに関する原稿を書くたびに「ネットの負の側面も必ず入れてほしい」と編集者から要望されたものだ。年齢が高く社会的地位のある人ほど、ネット企業に対して否定的な見解を持っていたように思う。自分たちが築き上げた社会の秩序を、ネット企業が壊すのではないかという恐れがあったのだろう。

その恐れをベースにした社会の好奇心にうまく乗じて、堀江氏は時代の寵児になっていった。ただベースにはやはり恐れがあったため、最後には社会は「出る杭」である堀江氏を叩いた。個人的見解を言わせてもらえば、事件の本質を僕はそのように理解している。というのは、堀江氏が犯した罪(過失?)に対して課された代償は、あまりに大き過ぎるからだ。

僕の個人的なとらえかたを裏付けるように、本を読むと、ライブドアの社員たちは、純粋にネットビジネスが好きでがんばっていたことが分かる。小林氏は「自分が知る限り、一緒に仕事をしていた同僚、仲間で、後ろめたいという意識で仕事をしていた人間は一人もいなかった」という。

堀江氏の実際の様子に関しても、マスメディアが伝えるイメージとは大きくかけ離れていたようだ。マスメディアは堀江氏が「金で買えないものはない」と常に豪語していたかのように伝えたが、小林氏によると、社内でそういう発言をしたのを、見たことも聞いたこともないという。また女性を連れてチャラチャラしているイメージもあるが、そういう事実を社内で聞いたことはなく、小林氏が持つ堀江氏のイメージは、「いつも仕事をしている」ということしかなかったという。マスコミが元社員に「ひどい社長だったんじゃないですか」と質問するのを見るたびに「分かってないな」と思ったという。「明らかに悪いことを、分かってやるような腹黒い人だと思ってことは一度もない」と小林氏は語っている。

少し引用しよう。

「堀江さんのすべての言動について納得できていたわけではない。ただ、彼のことを好きだったか嫌いだったかと聞かれれれば、好きとか嫌いとかの次元というよりも、とにかく『すごい』の一言に尽きる。目的達成のためには手段を選ばず、前例があろうがなかろうが臆することなく、常にド直球勝負。だが、単に無謀だったわけではない。人一倍の努力あっての即断であり、それで結果がついてきていた」。



本の中では、堀江氏の自由な発想が社風となり、固定概念に一切とらわれず、ネットサービスを迅速に作っていくライブドアの社員たちの様子がいきいきと描かれている。力の限り仕事を楽しんでいる若者たちの姿が描かれている。小林氏は、それをライブドアの遺伝子と呼ぶ。

一方で、その社風が加速し始めると小林氏は危機感を感じ始めた。小林氏は当時の上司である出澤剛氏(現LINE代表取締役)と次のような会話をしている。

小林氏「出澤さん、会社はいま、どんどん有名になっていっていますけど、いろいろなところが未整備のまま進んでいます。このままじゃ、いつか会社が破綻するんじゃないですか?」 出澤氏「確かにそうかもしれない。でも、ここまで来てしまったら、オレはこのまま、どこまで成長していくのかを見届けてみたい気もする。それが正直なところだよ」

そして小林氏の危惧通り、堀江氏率いるライブドアは一旦破綻してしまう。

ただ固定概念にとらわれず力の限り仕事をするというライブドアの遺伝子は残った。


▶LINEに引き継がれたライブドアの遺伝子


本の中で、IT業界で活躍するライブドア出身者の名前と肩書がリストアップされているが、圧巻である。当然LINE株式会社に残った元ライブドア社員が最も多く、出澤剛代表取締役COOを始め、田端信太郎上級執行役員、池澄智洋執行役員、落合紀貫執行役員、佐々木大輔執行役員ほか、多数の元ライブドア社員が今日もLINE株式会社の中枢に在籍し活躍し続けている。そのほかのIT企業にも、あの人もそうなのか、この人もそうなのか、というほど、数多くのライブドア出身者が参画しており、ライブドアの遺伝子が各方面で大活躍していることを再確認できる。

ライブドア事件は、日本が情報化社会という新しい社会を築くための「産みの苦しみ」だったのかもしれない。その苦しみがあったからこそ、その遺伝子はLINE株式会社という新しいステージで、力強く、しかも謙虚に、活躍できているのだと思う。

日本の情報化社会へ向けた歴史の1ページを知るには、最適の本となっている。




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