モノのインターネットでもURLを標準に リアル空間争奪戦で先行するAppleにGoogleが「待った!」

モノのインターネットでもURLを標準に リアル空間争奪戦で先行するAppleにGoogleが「待った!」

テクノロジー業界の覇権争いがインターネット空間からリアル空間に移行した。先行するのは米Apple。電子決済システムのApple Payが米国の銀行やクレジットカード会社から幅広い支持を受けているのに加え、リアル店舗内の位置情報を発信するiBeaconと呼ばれる仕組みも準備が進んでいる。

テクノロジー業界の覇権争いがインターネット空間からリアル空間に移行した。先行するのは米Apple。電子決済システムのApple Payが米国の銀行やクレジットカード会社から幅広い支持を受けているのに加え、リアル店舗内の位置情報を発信するiBeaconと呼ばれる仕組みも準備が進んでいる。米国の著名ブロガーは、リアル店舗のマーケティング、決済の仕組みで、AppleはGoogleの3年先を走っていると指摘するほどだ。

そんな中、Googleがあらゆる物体にURL(ネット上のアドレス)を持たせることを提唱するプロジェクト「The Physical Web」を打ち出した。AppleのiBeaconが発信する独自データではなく、ネット上で広く使われているURLをリアル空間でも業界標準にすることで、Appleのリアル空間独占に向けた動きを牽制しようというわけだ。

果たしてモノのインターネット、リアル空間での覇権争いは、Appleが独占するのか。Googleがオープンな標準を提案することで、それを阻止することができるのか。しばらく両社の動きに注目する必要がありそうだ。


▶AppleはGoogleの3年先をリード

Appleが電子決済システムApple Payを発表し、米国の銀行、カード会社がそれを絶賛するのを見て、僕はリアル店舗のコマースや広告、マーケティングに対し、Appleが絶対的な影響力を持つようになるのだろうと確信した。Appleが日本を含む先進国において支配力を増すという予測は過去のメルマガに書いた通りだが、同様の意見を米国の有力ブロガー、Steve Cheney氏が自身のブログにまとめていたので、今回は同氏の意見を紹介したい。

同氏は、世界のシェアではandroidがiOSを上回っているだが、ハイエンド端末市場ではiPhoneが圧倒的な強さを誇っていると指摘。実際に、米国ではiPhoneがシェアをさらに伸ばしているとしている。

そこにApple Payの発表。同氏は「電子決済に関するすべての面でAppleがGoogleの3年先を走っている」としており、今後Googleがどう挽回しようとがんばっても、追いつくのは難しいとしている。

なぜならGoogleが、端末メーカーにAndroid OSの派生バージョンを作ることを認めたため、OS自体に統一性がなくなってきたから。またキャリアやメーカーは端末を売ることが目的のため、販売後のOSのバージョンアップに消極的。このため、古いバージョンのOSのままのユーザーが多数存在することも問題。ことなるバージョンをも含めて1つのOSと見なせばシェアはiOSよりも上だが、実際には多数のOSが存在するようなもの。非接触型ICのリーダーが店頭に普及したとしても、それを利用できるAndroid端末の数は限定されたままだろう。同氏は「たとえ(非接触型ICの)NFCリーダーがApple Payのおかげでレジに普及しても、GoogleはAndroidユーザーに統一された体験を提供できないだろう」としている。

こうしたことからモノのインターネットの時代、リアル空間をデジタル化する時代が到来する中で、「Appleのリードはますます広がるだろう」と同氏は断言している。

モノのインターネットの時代の中核技術になるとみられる省電力無線通信技術のBLE(Bluetooth Low Energy)、位置情報発信機のビーコン、非接触型ICのNFCなどといった技術が広く普及するには、まずはリアル店舗の物販、飲食といったビジネスで利用されなければならない。

そうしたビジネスの中核になるのが電子決済。お金が動く仕組みがあって初めて、店舗は、BLE、ビーコン、NFCリーダーを設置する。そしてその電子決済の部分を、AppleがApple Payを使って手中に収めるのがほぼ確実。それが現状だ。

Appleは、自分たちが使いやすいようにBLEを改良したiBeaconと呼ばれる無線技術の普及を促進しているが、店舗側はApple Payの採用に合わせて、Apple独自仕様のiBeaconをも採用していく可能性が高い。つまりAppleの無線規格が、モノのインターネットの業界標準になってしまう可能性があるわけだ。


▶ウェブで確立したノウハウをそのまま利用できる

それを阻止するために、Googleが急きょ立ち上げたのがThe Physical Webというプロジェクトだ。簡単に言うと、ビーコンがURLを発信するように設定することで、そのビーコンに近づけば関連するウェブサイトやアプリが自動的に立ち上がる。そんな仕組みを業界標準として普及させよう、というプロジェクトだ。

バス停留所に近づけば、そこに設置されてあるビーコンがウェブサイトのURLを発信。スマートフォンでそのURLにアクセスすれば、バスの時刻表や次のバスの到着予測時間が分かるようになるという。

路上駐車のパーキング・メーターにもビーコンが設置されていれば、スマートフォンでURLにアクセスし、電子決済でワンタッチで料金を支払えるようになる。

今は、店舗やサービス事業者が専用アプリを開発し、そのアプリをダウンロードしておかないと情報やサービスを受けられないが、GoogleはAndroid OSにビーコンから送られてくるURLを受信する機能を持たせ、アプリをインストールしていなくても情報やサービスを受けられるようにする考えだ。「これから(情報を発信する)デバイスの数は爆発的に増加する。それぞれが用意したアプリをダウンロードしていない限り、(情報、サービスを)受け取ることができないという状況は、非現実的だ」としている。

URLを推奨する理由としてGoogleは次のように述べている。1つには、URLはインターネット上では実績があるということ。セキュリティ対策やスパム対策も、ネット上で培った技術、ノウハウをそのまま利用できる。また無数に発信されるであろうビーコンからの情報の中から今の自分に最も関連深いものだけ表示する技術は、検索エンジン技術で既に確立している。

そして「最も重要なことは、中央集権的でないといういこと。だれもが参画でき、中央のサーバーが渋滞する心配がない。これがウェブの中心的なポリシーであり、今日もウェブが利用されている大きな理由でもある」と述べている。


▶愚民政治より賢者の独裁

1社独占よりも、民主的であるほうがいい。それはそうに決まっている。しかしユーザーが求めているのは、ポリシーや哲学ではない。使い勝手だ。1社独占であったとしても、公平でユーザーが求める仕組みを提供するのであれば、ユーザーはそれを受け入れるだろう。独裁者より民主政治のほうがいいに決まっている。しかし、ときとして民衆は、愚民政治より賢者の独裁を望む。それと同じことだ。

心情的にはGoogleのプロジェクトに賛同する人が多いかもしれないが、実際の成否を決めるのは、The Physical Webプロジェクトがどの程度の利便性をリアル店舗や事業者に提供できるか。それにかかっていると思う。

Appleが大きくリードしていることは、間違いない。Googleが同プロジェクトを推進するために、どのような手を打って巻き返しを狙ってくるのか。非常に興味深い。







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